コツコツ健康「骨」コラムCOLUMN
意外!?「日光」は骨の
大切な栄養源
日光から摂取できる骨の栄養「ビタミンD」
厚生労働省により2020年に改定された「日本人の食事摂取基準」において、ビタミンDの摂取基準量が、現在の5.5μgから8.5μgまで引き上げられたこと※をご存知でしょうか。日本では今、乳幼児・妊婦・若い女性・高齢者などを中心に、慢性的なビタミンD不足が指摘されています。
※「日本人の食事摂取基準」策定検討会報告書
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08517.html
ビタミンDは食事から摂取するだけでなく、紫外線に当たることで皮膚でも生成することができる特殊な栄養素です。そのため私たちがビタミンD不足になりやすい原因は、魚類を食べる機会が減っていること以外に、日光に当たる時間の減少も関係していると考えられています。
「紫外線は悪」という認識がビタミンD不足の一因に
1980年代にオゾン層の破壊が顕在化して以来、紫外線は有害であるという考え方が世の中に浸透しました。以前は母子手帳にも記載されていた「日光浴」が、1998年から「外気浴」という表現に代わったり、産院を退院する際に赤ちゃん用の日焼け止めサンプルをもらえたりすることもあってか、日光は「避けるもの」という意識はますます高まるばかりです。
また、驚いたことに「コツコツ骨ラボ」が2019年に実施した調査で、子供の日焼け止め使用開始年齢は「就学前から」が63%にのぼることもわかりました。今どきのお母さんたちの、「紫外線は悪者」という危機意識が強く感じられます。
ビタミンDが不足すると、骨へのカルシウム沈着障害が起き、骨に関わる病気にかかる可能性が高まるとされていますが、実際に近年はビタミンD欠乏症によるとみられる子供のくる病※1 頭蓋ろう※2 が増えていると言われます。
そして、多くの親世代が感じているように、昔と比べて現代の子供たちは屋外で遊ぶ時間が減っています。理由としては、「屋外で遊べる場所が少ない」「屋外での事故や事件が怖い」が全体の1位2位を占めていましたが、興味深いところでは女子の母親が「日焼けさせたくない」を理由に挙げる割合が目立っていました。
※1 骨がもろくなって変形や成長障害を引き起こす病気
※2 頭蓋骨の石灰化が不十分で容易にへこむ状態
また、同じ調査で子供が夏休みに屋外で2時間以上過ごす頻度を尋ねたところ、「週に1〜2日」と答えた割合が最も高く、夏休みに食事・睡眠以外で一番長く過ごす場所も「家の中(自宅・親戚宅・友人宅など)」が最多でした。
※コツコツ骨ラボ調べ(2019) 対象:同居する小・中学生の子供がいるお母さん(n=1000)
夏休みは「外遊び」で効率よくビタミンD摂取を
ビタミンDは、食事から5.5μgを摂取しているとすれば、それ以外にも日光から10μgを生成した方がいいと考えられています。実際にその量を日光から摂ろうとすると、どれくらいの時間日に当たる必要があると思いますか?地域や季節、時間帯によって差はありますが、関東の調査地点である茨城県つくば市の場合、7月中旬の正午ならたった9分で大丈夫です。これは大人の両手の甲と顔を合わせた面積(約600㎠)での調査結果ですので、半袖・半ズボンなどを着て日光に当たる面積を2倍にすれば、そのぶん時間も半分に短縮できます。
紫外線を浴びさせることにどうしても抵抗があるという方は、手のひらだけでも日光浴させてみてはいかがでしょうか。手のひらにはメラニン色素がほとんどありませんから、外出する際は手のひらが日光に当たるように意識して過ごすだけでも、効果が期待できますよ。
それぞれ、肌の露出面積が600 ㎝2の場合に10 μg のビタミンDを生成するのに必要な紫外線照射時間(正午ごろ)を意味します。
夏は紫外線量が多く、短時間で効率的に体内のビタミンDを増やせる時期です。あまり室内ばかりで過ごさず、丈夫な骨づくりのために1日に数分でも日光に当たることも意識してみましょう。
将来、骨粗しょう症にならないためにも、子供のうちから骨量を上げておくことはとても大事です。世代的にも骨密度の減少が気になり始めるお母さんと一緒に、これからは普段の生活の中で食事とともに日光を上手に味方につけて、親子で丈夫な骨づくりをめざしましょう。
神戸学院大学 栄養学部栄養学科 教授 津川 尚子 氏
神戸薬科大学衛生化学研究室准教授、大阪樟蔭女子大学健康栄養学部健康栄養学科公衆衛生学研究室教授を経て、2023年4月より神戸学院大学栄養学部栄養学科教授。成⾧期から高齢者におけるビタミンの栄養状態と骨の健康について研究している。